誤作動記憶のメカニズム


以下「イップスを超えて」保井 志之 編 LCA出版より抜粋

誤作動記憶のメカニズム

誤作動記憶とは何か

誤作動記憶は、心身条件反射療法(PCRT)において中核をなす概念であり、イップスや局所性ジストニアなどを含む慢性症状に深く関与しています。前述の章でも解説しているように、誤作動記憶とは、誤作動が脳や身体の機能に記憶される状態です。誤作動記憶の「誤作動」とは、機械の歯車が破損してスムーズに噛み合わない状態というよりも、電気信号の混線によってプログラム異常を起こし、その末端の機能が正常に働かない状態を指します。画像診断などでは確認できない電気信号の問題なので、仮説的には電波の波長や波動が乱れた状態、あるいは天候不順でWi-Fi に通信障害がある時のような状態です。さらにミクロ的にいうと、信号のイオンバランスが偏った状態であるといえます。誤作動記憶は、過去の経験や心理的トラウマ、あるいは何気ない「心の動き」が無意識のうちに脳内に記憶され、特定の刺激や状況下で予期せぬ身体反応を引き起こす現象を指します。このプロセスは、心の信号が無意識レベルで身体の神経系や東洋医学で伝承されている経絡、チャクラ、オーラなどの生体エネルギー系の信号に影響を及ぼし、誤った身体反応のパターンを生成することにより発生します。

誤作動記憶の記憶とは、科学的にも検証されている「記憶」のことですが、PCRT では「無意識の記憶」というところに注目している点が、一般的に理解されている記憶とは異なるかもしれません。無意識の記憶は、個人が自覚的に思い出すことができない記憶です。これらは無意識のレベルで処理され、しばしば自動的に行動や身体反応に影響を与えます。PCRTでは特に慢性症状に影響を及ぼしている無意識の記憶を特定して、書き換える調整を施しています。

無意識の記憶には主に二つの形態があります。一つ目は「前意識の記憶」で、すぐには思い出されないが、必要に応じて意識の中に取り戻すことができる記憶で、PCRT の認知調整法の検査で誤作動記憶として引き出されます。二つ目は「潜在記憶」で個人が意識的にアクセスすることが難しい深層の記憶です。これには抑圧された記憶や条件付けられた身体反応が含まれ、PCRT 検査で身体反応が示されるキーワードやそれに関係する分野や立場を示されても、意識化することが困難なレベルの「無意識の記憶」になります。

無意識の記憶は、感情、習慣、直感的なスキルなど、日々の行動や判断に深く関わっています。たとえば、自転車の乗り方を学ぶプロセスでは、初めは意識的に考えながら行いますが、習得すると無意識に乗れるようになるのは問知の通りです。心理学者のシグムント·フロイトは無意識の概念を心理学に導入しました。彼は無意議が抑圧された欲望や衝動を含んでいると考え、これらが行動や精神状態に影響を与えると提唱しました。無意識の記憶は「サブリミナル効果」としても知られており、広告やブランディングの分野で広く利用されています。例えば、特定の製品に対する肯定的な感情を反復的に植え付けることで、消費者の選択に影響を与えることができます。

無意識の記憶や信念は、瞑想や意議的な練習を通じて、ある程度認識され、変更されることがあります。これはセルフヘルプや心理療法で用いられるアプローチです。無意識の記憶は、私たちの日々の行動、決断、感情に大きな影響を与える、見えない力です。この概念を理解することで、PCRTで提唱している「誤作動記憶」の調整がいかに慢性症状を改善する上で大切な意味を持つのか、さらにはその治療過程において、自己理解を深め、より健康的な意識的選択をする助けになるということがご理解いただけると確信しています。

PCRT の臨床研究によると、誤作動記憶は二つの主要な無意識記憶の形態、すなわち「手続き記憶」と「条件付け(統合記憶)」に関連しています。手続き記憶は特定のタスクやスキルに関連した記憶で、繰り返しの訓練を通じて自動的に実行される特徴があります。一方、条件付け(統合記憶)は特定の刺激や状況に対する自動的な反応が形成される記憶です。

誤作動記憶の「上書き」は、PCRTにおける治療哲学の中心にあります。これは、慢性症状を引き起こす記憶の神経回路を健全な神経回路に再構築させるプロセスです。心理学的には、無意議的に関連していた誤作動記憶の内容に対する解釈の変容が生じ、新たな心の信号の書き換えが脳内で起こり、誤作動が正常化すると考えられます。この再学習プロセスは、身体の生体反応を観察し、心の深層に潜む誤作動記憶を顕在化させることにより進行します。これにより、誤作動のループを断ち切り、健全なループを再構築することにより根本的な改善を目指します。PCRTでは、このプロセスを「誤作動信号」と「誤作動記憶」の調整として位置づけ、通常の医療や代替医療とは異なるアプローチを提供します。


誤作動記憶を探していくには、「無意識」について知る必要があります。

無意識についてをご参照ください。